2017年3月2日木曜日

【書評】『早く家へ帰りたい』高階杞一:愛する子どもを持つひと、喪に服すひとの処方箋


また、夏葉社の詩集。先日書いた尾形亀之助といい、どうも最近詩集に手が伸びる。



この詩集は1995年に出版されたものの復刊で、2013年に出たもの。
小さい子がいる自分の状況もあり気になってはいて、たまたま見つけたので即買いした。こういうのは見つけた時に買わないと、得てしてなかなか見つからなくなってしまう。

1994年に亡くなった著者の息子雄介くんのその生、共に過ごした日々、そして死を紡いだ詩がまとめられている。

前々から思っているんだけど、詩という表現は写真と似ていると思う。
「写真っていうのは未練だからね。未練がなかったら残そうと思わない。そういう女々しい作業が人間的でいいんだよ。」
(『人間、泣かなくちゃ』より)
と言ったのはアラーキーなんだけど、詩も同じだよなぁといつも思う。

「残したい」と思う瞬間があって、
それを言葉で切り取る行為が詩で、
画像として切り取る行為が写真で、
切り取るための道具が何かという違いで、本質的な表現の欲求って同じだと思う。

そしてその瞬間というのが、極めて私的な事なんだけれど、
生とか、死とか、恋とかで、多くの人間が同じ思いをするから、
普遍性を持つのだと思う。

そういう意味で、この『早く家に帰りたい』に収められている詩は、
最も私的があるからこそ、もの凄い普遍性を持って訴えかけてくる。

それに、個々の詩だけでなくて、詩集の編み方もすごく良くて、良すぎて切ない。

雄介くんが産まれた時の詩から始まり、
産まれて数ヶ月で手術になった時、
入院する病院に向かう時、
やっと退院した時、
そして、亡くなった時、
亡くなった後に思い出す時、と続いていく。

それぞれのスナップショットが連なっていって、
読む側も、雄介くんと共にいた日々を追想出来る。

その中で、亡くなったその時の詩が表題作の"早く家に帰りたい"だ。
ある程度の長さがある詩なので、中途半端な引用はしないけど、この詩は本当にすごい。

「早く家に帰りたい」という言葉自体のキャッチーさ、心惹かれる感じと、
それと裏腹に自分の子供の死に直面する事の重さとが両立していて、
さらに、この「早く家に帰りたい」という言葉がキーとなるように、巧みに詩が構成されている。

僕みたいに小さな子がいる人は勿論、大切な人を亡くした人に取っても、悲しみに寄り添うような詩になっていて、かつ、そのキャッチーさや構成の巧さでどんな人も引き込める詩になっている。
いやー、すごい。すごくて切ない。

もっと広まればいい詩だと思う。
教科書とか便覧とかに載せたい。

そして読む人は出来ればお家でゆっくり、静かに堪能してほしいと思う。

おしまい。



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