2017年1月29日日曜日

【書評】天才にして、稀代のエロ事師!村西とおるの極厚伝記『全裸監督』



「お待たせしました。お待たせし過ぎたかもしれません…」



「カリスマティックで、エキセントリックで、ドラマティックで、ポルノグラフィックな村西とおる監督の決定版伝記が、マンを持してリリースされたんですねぇ。」



ふぅ…、村西とおる節でちょっと入ってみた。このまま1本書こうかと一瞬思ったけど、無謀だとすぐに気付いたよ。。


さて、村西とおるという名前、男性諸君ならば1度は聞いたことがあるだろう。ただ、30代以下の人達は名前こそ知りさえすれ、その実、どういう人で何でこんなに有名なのか、きちんと知らないのではないだろうか?

かく言う僕もほぼ同様で、「なんかエロ界隈で伝説化されてるおっさん?」位の認識だった。

実際その通りで、エロ界隈の伝説的なおっさんなのだが、今回この『全裸監督』というおおよそ700ページもあるクソ厚い伝記を読んで、村西とおるとその生き抜いてきた時代のスゴさand面白さにカッ飛んだ。

いや、久々にこんな面白い伝記を読んだよ、この厚さで。
とりあえず、スティーブ・ジョブスの伝記を買ったけど読まずにインテリアの一部になってるやつらは全員これ読んだ方がいいよ!

すげぇハングリー精神、すげぇ商才、すげぇ肝っ玉、すげぇ胡散臭さ。

正直 "Stay hungry, Stay foolish"をここまで体現してるのって、イーロン・マスクとジェフ・ベゾスと村西とおるしか知らんぜ。

エロという色眼鏡、そして前科7犯という逮捕歴がついてまわるけれども、本当に時代の寵児が突っ走った躍動感のある伝記に仕上がっております。

まず以って、帯文が素晴らしい。

「人生、死んでしまいたいときには下を見ろ!おれがいる。」

格好良すぎるわ!笑


さて、ひと盛り上がりさせて頂いたところで、読みどころを紹介したい。のだが正直クライマックスが多過ぎるので、とりあえず時代を分けて紹介しよう。

■誕生〜英語教材セールス時代
上京して初任給17,000円から、英語教材セールス全国1位まで上りつめ、「5,000円以下の昼メシは食わなかった」とうそぶいた時代。最初の成功を勝ち取った。

こういうキャリアのビジネスマンのビジネス書とか、よく見るでしょ?「本当の営業力 -僕はいかにして全国1位を取ったか。-」みたいな。。
村西とおるの、ビジネス書とかに載っててもおかしくないような「営業の心構え」みたいな話も本書で出てきて、ただ感心。普通に商売やっててもすげぇおっさんだったんだなと分かる。。

でも、村西とおるにとってはほんの序章。そもそもまだ、エロ業界にも入ってない。

■ビニ本・裏本時代
エロが儲かる、と分かった村西とおるがフットワーク軽くエロ業界に進出。破竹の勢いで業績を伸ばす。
そして稼いだ金を湯水のごとく使う使う。読んでて気持ちが良くなる位。
そんな中でもビジネスセンスは冴え渡る。「結局エロっていっても流通をおさえたヤツが勝つわけよ」と、冷静かつ戦略的な当時の販売方法を語りつつ、裏での警察や税務署への介入の話も暴露される。

■AV監督時代
本書のメイン。とにかく出てくる話題がトンデモない。
アメリカで捕まって懲役370年を言い渡されるわ、ジャニーズ事務所とガチで喧嘩するわ、逮捕歴を積み重ねるわとスキャンダラスって信じられない話題を振りまきつつ、"AVの帝王"と評され、そして倒産まで走り抜いた経緯と、黒木香を始めとした、時代を彩った代表的な女優達の話や製作秘話がかなり詳細に綴られている。

そしてその詳細に女優たちへの並々ならぬ愛情と、その時代への愛着を感じる。とにかく一人一人の事をすごく覚えていて、細かなエピソードも含めて山のように話が出てくる。圧巻。

■借金50億〜現在
倒産してからの激しい取り立て、金策、貧乏暮らしが隠す事なく語られている。闇社会と言われる人達からの取り立てや裏切り、そんな中、家族で肩を寄せ合い生き抜いていく生き様がどこぞの泣かせるドキュメンタリーも真っ青の感動話。
しかも芯の通った子育ての自論を持っているのが驚き。
その子育ての成果として、長男が受験最難関小学校に合格した時、出版社から"子育て論"の執筆依頼が殺到した。にも関わらず「子どもを金のタネにしたくない」と断固拒否したというただただ凄い父な伝説も出てくる。
それから現在に続く暮らし、体力的に男優として機能できない事実と、近年高まる村西とおるへのリスペクトなどの周辺の話も書かれている。

代々木忠との対談の話があったが、村西とおると代々木忠の二人は、本当にAV界を作った二大レジェンドなんだなぁと感慨深く読み耽った。

読む前まで「名前しか知らん」程度の自分だったが、ここまで読むと村西とおるのスゴさが分かり過ぎる程分かり、自然と感慨深くなったのだ…。


とまぁ、各時代それぞれが伝記1本分に値するような凄まじい人生の濃さ。「そりゃ分厚くなるよね」と、最終的には納得の1冊なのです。

いや、ホント、騙されたと思って、ヘタなビジネス書とか買うよりよっぽど実践的な知恵に溢れた本ですよ。司馬遼太郎とか読むと思って、是非どうぞ。


最後に村西とおるに敬意を評して、彼の決め台詞で。

「ナイスですねぇ、ナイスな本でした。」



おしまい。

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