2017年1月17日火曜日

【書評】西加奈子『i(アイ)』:"わたし"と"あなた"と"みんな"の物語

昨日はなかなか重い本を扱いがっつり書いた(「文庫X」こと、『殺人犯はそこにいる』:1人でも多く読むべき本)ので、今日は軽めで。

最近、新しい小説読んでないなぁと思い、本屋でよく見かけ、目を惹いたものをチョイスして読みました。
去年(=2016)の11月30日に出た、西加奈子の最新作。


前にTVとかで見て(『さんまのまんま』出てたのだ!)西加奈子自身には好感持っていたのと、
西加奈子と仲良しの又吉が帯文を書いて大絶賛していたのが決め手。

個人的に、又吉の薦める本はかなり信用してる。



これ、又吉の書評集なんだけど、凄く面白かったし参考になった。


で、そろそろ話を戻そう。
今回、初めて西加奈子の小説を読んで、リアリティの持たせ方が上手い人だなと思った。

主人公の年代が僕と同じくらい(=31歳)で、災害・戦争・テロなどの時事的な話を同時代的に思い出せるのもあるんだけど、   
読者が少し共感しづらい人物設定にも関わらず、自然に寄り添う事ができたのは、著者の力量だろう。

少し設定を話すと、主人公のアイは、アメリカ人の父と日本人の母に養子としてもらわれたシリア生まれの女の子、という設定だ。
そういう女の子が日本で暮らし、学校に通う。昨今、国際化してきたとはいえ、こういう境遇はかなりレアだろう。

また、親友のミナはLGBTだ。後半で登場するパートナーも女性。広く流通するレッテルを持った少数者、だろう。

こういう人達の登場の仕方、立ち居振る舞いが自然で凄いなと思った。僕が最近の小説読まなすぎなのかも知れないけど、この読後感は初めて。

西加奈子はテヘラン生まれでエジプトにもいた事があるらしいから、その辺りが生きているのかな、とかつらつら思った。

中身としては、タイトルが『i(アイ)』である通り、主人公アイの話だ。

アイの名前が片仮名である事がポイントで、
アイ=I で「私というものの物語」が主題としてありつつ、アイ=i(虚数のi)でもあり、アイ=love にもなる。

主人公の名前に多義性を持たせることで、多義的な読み方を出来るようにする装置がこの"アイ"だ。

更に、アイの結婚相手の名前はユウ=you だし、
もっと言うとアイの親友の名前がミナ=皆 だ。

主要な人物の名前を全て代名詞と重ねる事で、普遍性を持たせようという狙いなんだと思う。

この辺りの設定を抱えつつも話の運びは自然。
上手いなーと思う。いや、実際この人すごいな、この先とんでもない面白いの書いてくれそうな予感がする。勝手に期待。

西加奈子、他にも読みたいと思う一作。


あと、作中に『テヘランでロリータを読む』が出てきた。
これ、大分気になってたけど、様子見してたやつだ。


けど、この小説を読んで更に読みたくなったので買おうか迷う。
面白いんだろうなーこれ。ちょっと引用されてる部分の雰囲気だけで、もう面白そうだもんなー。どうしよ。

おしまい。

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