2017年2月5日日曜日

【書評】児玉博『堤清二 罪と業 最後の「告白」』:堤清二が語る、一族の物語

本書は昨年(2016年)大宅壮一ノンフィクション賞を取った著作で、かなり話題になったので覚えている人もいるかもしれない。



西武鉄道グループの祖、堤康次郎の息子であり、元セゾングループ代表であった堤清二。
彼が2013年に還らぬ人となる直前、2012年に行ったインタビューを基に構成されたのが本書だ。

インタビューの中から紡ぎ出された堤清二とその家族とのエピソードを中心に、西武グループの興りから堤一族の没落(2005年の堤義明逮捕に端を発する西武グループ解体をここでは指す)までが書かれている。
勿論、堤清二本人のインタビューというのが目玉ではあるものの、彼の、というよりも彼の発言を触媒にして、堤一族の人間模様が描き出す事を主眼にした評伝だ。

立志伝であれば、父で創業者の堤康次郎、二男でセゾングループ代表の清二、三男で西武鉄道グループ代表の義明、この3人がやはり中心ではあるが、
この評伝では清二の母親である堤操、義明の母親である石塚恒子や、清二の妹である邦子や、清二の異母兄弟(義明とは同じ母親)である康弘、猶二などの人物像も立つように描かれており、それがこの本の白眉だと思う。

大袈裟な物言いをするならば『平家物語』のように、ある一族の勃興から没落について、多様な人物の想いが切り取られる。

栄華を勝ち取るものの立志伝(=堤康次郎の立身出世)、息子達の活躍と争い(=清二と康明による経営拡大と、それに伴う争い)、その男を見る女の想い(=堤操と石塚恒子の想い)、子を想う母の歌もある。(=堤操は歌人であり、清二が幼い頃に詠まれた子を想う短歌などが紹介されている)

物語には、堤家の複雑な家系や康次郎の女性遍歴、康明の女性遍歴なども当然絡む。
そのためマスコミやメディアでは、清二と康明の争いも相まってスキャンダルとしての扱いが先行してしまい、ゴシップ的に描かれがちだった。

そういうゴシップ目線を取り除いて丹念に書かれている。

話題の本、というのでこの本から読んでも勿論いいが、僕は去年、辻井喬(堤清二のペンネーム)の『叙情と闘争』を読んでいて、これがいい前提知識になった。時間が許すならこの本も合わせて読むといい。


この本は堤清二/辻井喬が西武百貨店に入り、一代でセゾングループを築き上げるまでの事業、文学遍歴の回想録だ。
辻井喬として、詩や小説で幾つも文学賞を受賞しているだけあり、文体は凄く瑞々しく、リリカルだ。
こんなに爽やかなタッチで政治家や事業家達とのやり取りを振り返った回想録を他に知らない。

「セゾン文化」というものが気になり、そこからセゾングループを築いた堤清二という人間が気になって読み始めたが、文章といい、内容といい、びっくりするほど面白い。スコープとしては、バブル期前後の時代のみならず、戦後日本が当てはまる内容だった。

そして、堤一族を捉えるならばもっとスコープは広く、20世紀という尺度に照らしてその業績を考えるべき人々だ。なので、もっと広い歴史と照らしたい人は本書(『堤清二 罪と業…』の方)から読むべきだろう。

何せ堤康次郎の立身出世の物語には、「大隈重信から頼まれて『新日本』の社長になった」みたいところから始まるんだから。

色々な所に興味の広がりが持てる、いい読書だった。



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