2017年1月4日水曜日

書評『ヤノマミ』国分拓:稀有な条件が揃った傑作ドキュメンタリー

あけましておめでとうございます!
今年も宜しくお願い致します!

さて、今年の1発目の紹介は、年末年始に読んだ『ヤノマミ』です。




この本は、僕がいつも読んでいるチェコ好きさんのブログで2016年読んだ本の1位に選出されていたのが、読もうと思ったきっかけ。


ヤノマミ族、その名前とどこかの原住民だと言うことは知っていたし、NHKのドキュメンタリーで話題になった事も微かに記憶にあった。

なんというか正直、そういう原住民のドキュメンタリーってすごいんだけど何となく想像できるような気がして、チェコ好きさんが1位に選出してるのはかなり意外だった。

「そんな凄いのかなー」と半信半疑で、むしろ2位、4位、10位と3冊も選出されてる探検家高野秀行さんの本の方がヤバそうじゃないのって思った。

10位の『アヘン王国潜入期』とかタイトルからしてぶっ飛んでる感じするし、クレイジージャーニーとかも出てるみたいだし。

購読してるブログ、特に個人のブログで薦めている本は当たりが多い事を経験的に知りつつ、一方では正直「どうなんだろーなー?」って思ってた。

そんな感じで判断保留状態でしておいたところで、年末最後に往来堂書店で本を漁ってると、ふと目に入ってきたので、「これはご縁」ととりあえず買って、読んでみた。


結果としては大正解。
ノンフィクションとして面白く、また、この本から繋がる領域が思った以上に広かった。
これは著者の国分さんに依るところと、滞在時期によるところが大きい。

この本は、NHKのドキュメンタリー番組を製作するために、著者が150日間滞在して実際に見聞きし、体験したヤノマミの暮らしが書いてある。

この本の凄いところは、著者が良い意味で普通の現代人の感覚を持っていること。
そしてなおかつ、その感覚を可能な限り捨てて、真っさらな眼でヤノマミの暮らしを見て記録しようとしていることだ。

「探検家になるために生まれてきた!!」みたいな人ではなく、あくまでも普通のTV局の人間の感覚がある事で、僕ら現代人がもし同じ状況に立たされたならば持つであろう恐怖であったり戸惑いであったりという感情が描かれている。
また、それを出来る限り捨ててヤノマミの思考に寄り添おうと奮闘しようとした結果、肉薄出来たヤノマミの暮らしも書いてある。

この著者の眼を通して見ることで、ともすると観光案内や御伽噺のように外側から見てしまいがちのヤノマミという民族が、同じ時代に生きている人間なんだと言うことがリアルに伝わってくる。

そしてそれをリアルに捉えれば捉えるほど、現代の自分達の暮らし・文明が相対化され、自分が今まで前提としてきたものがそう感じられなくなる可能性がある。
(著者は帰国後の一時期、ある種"壊れた"状態になってしまい体調を崩したと書いてある)

自分も読後、生活する中でふと、このヤノマミの文化が頭をもたげる瞬間が出てくる事があり、チェコ好きさんが1位に選出した理由をようやく理解できた気がした。


そして、滞在した時期が良かった。

この本の後半には、取材で滞在した「ワトリキ」という集団の長老が「ワトリキ」を作るまでを語った個人史と、文明側(要は僕ら)から見てヤノマミに対する歴史的・政治的文脈が書かれている。

その中で、政府の原住民保護施策の一環などで、文明側の思想なり、いわゆる『文明の利器』がもたらされ、良くも悪くも文明化していく途上としてヤノマミは位置づけられている。

150日滞在した「ワトリキ」はドキュメンタリーとしては最高の恐らく最高の状態で、滞在中はまだ文明化されていなかったが、滞在の後半、文明の利器が生活に入り始めているところだった。

このNHKの取材班の滞在が、初めて文明側のメディアが長期滞在する事を許可した例だということを考えても、文明側との微妙な均衡点にあった、レアなタイミングだった事が想像出来る。

あの滞在した時の、文明化されないままの「ワトリキ」はもうどこにも無いだろうと、著者もあとがきで懐古的に想いを語っている。

もしかしたら文明化されていない種族の元に長期滞在して、ドキュメンタリーを製作できたのはこれが最初で最期なのかもしれない。
そういう意味で、時期が良かったのだと思う。


そして読みどころとして一つ補足すると、本書は滞在記と歴史という二本立てになっているので、今話題のこの本とか、



文化人類学の古典であるこの本とか、



のいい導入書になると思われる、(後者は本書でも言及がある)

なので、文明論とか文化人類学とかに興味ある人は手始めに本書を読むとリアリティを持った状態でもっと専門的な本に進めるんではないかと思う。



僕はとりあえず『サピエンス全史』の上巻を買ったので、リアリティが冷めやらぬように読み進めようかと思う。

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