2016年4月21日木曜日

書評『小説家という職業』森博嗣: ”ビジネスとして”の小説家案内

 

本書を開くと序盤も序盤、まえがきの9行目でこんな事が書いてある。

もしあなたが小説家になりたかったら、小説など読むな。

『すべてがFになる』や『スカイ・クロラ』の作者である森博嗣が、主に小説家になりたい人に向けて小説家というものを語っているのだが、何を隠そう、これが本書の結論だ。
(森博嗣自身もはっきりこの本の結論だと言っている)

この本が世に数多ある「小説家になるには」シリーズの他の本と一線を画すのもまさにこの一文に依る。

初めて彼が小説を書こうと思った理由、それはお金だった。小説が好きだからでも小説家に憧れたわけでも何でもない。
当時大学教授だった彼にとって小説家、それは副業としてお金を稼げる手段、つまり「アルバイト」だった。
アルバイトを探す要件としてシフト、労働環境、業務内容、報酬もろもろを考えるとこんな感じだ。

・シフト= いつでも好きな時間に働けます(週0からOK!!)
・労働環境 = 在宅勤務OK
・業務内容 = 小説の執筆
・準備頂くもの = PC、もしくは紙とペン(文章が書ければ特に指定なし)
・報酬 = 出来高制(但し、アウトプットの質により0の場合もございます)

こう考えた時、大学教授として沢山の学生の論文指導で文章力には自信のあった(但し国語力には無かった)森博嗣は、「勝算あり」として小説を書き始めたのだった。そして結果は…ご覧の通りというわけだ。

だから彼にとっては小説はビジネス、ビジネスとして小説執筆を考えて「こうすべき」と判断される諸々を総括し、凝縮した一言が冒頭の一文となるのだ。

で、具体的にどういうことかと言うと、まず、
 ① 小説(特に売れる小説)において最も大切なものは「オリジナリティ」である
 ② 小説家を志すにおいて最も大切なことは「小説を書くこと」である
というのが森博嗣のキーメッセージである。

それに対して、このメッセージを送る主な対象である「小説を書きたい人」というのは
a)  小説が好きである
b) 小説をよく読んでいる
という性質を持つ人が多いと推測される。

a) b)の性質というのは、キーメッセージにどう働くかというと、
a)は、既存の好きな作品に影響を受けやすくなってしまうので、「オリジナリティ」の獲得に反する 。ゆえに①に反する。
b)は、小説を読むことに時間を費やしてしまうので「小説を書くこと」が十分にできない。ゆえに②に反する。 
と考えられる。

ゆえに「もしあなたが小説家になりたかったら、小説など読むな」となるのだ。

まあ、本の中ではここまで論理式チックに細かく記載されているわけではないけれど、
あくまでビジネスとして戦略的に、そして論理的にこう考えてやってきた結果、自分がどうしてきたのか。
そして小説家になりたい人はどうすれば良いと思うのか、が書かれている。

あとはビジネスとして収益性という点で、「収入がどれ位になったか」という事にも軽く触れている。
(詳しくは『作家の収支』という別の新書に書かれている。これも面白い)


極端な部分は当然あるが、
「結局、ほんとに才能あるやつはそもそもこんなハウトゥーめいた本は読まんのだろうし、読んだとしても好きにやってほっといても頭角表すでしょう。
だからこういう本を読んで小説家になりたいとか言ってる人たちは、きちんと差別化して、きちんと売る戦略も考えて勝負しましょうね。」
という主旨のことが書いてあり、これは本当にその通りだと思う。

小説家になろうとか言ってる人には暴論言うくらいでちょうどいいっすよね、って僕も思う。
なので、会社の上司みたいに大人の正論できちんと若者をぶった切る感じは、すごくカタルシスで読んでて気分良かった。

ちなみに森博嗣はkindle版が多い。(『すべてがFになる』『スカイ・クロラ』も当然ある)
これもまた森博嗣がビジネスとしてどう売っていくのか、を考えた結果なのだろう。
 

あと、kindle版だとよくセールになっているので、好きな方はちょいちょい見ることをオススメする。
たまに「日替わりセール」とかにも出てるし。

今はこれが安いみたい。




おしまい。

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