2016年4月20日水曜日

書評『我が詩的自伝』吉増剛造: 天才はかくあっけらかんと語りき

本の表紙を開くとカバーの内側に、筆者の略歴と近影が載っている。そこに舌を出して人を食ったような顔をしてるのが、吉増剛造だ。

吉本隆明をして『日本には詩のプロフェッショナルと呼べる人が3人いる。田村隆一、谷川俊太郎、そして吉増剛造だ』と言わしめたこの人は、近影を見て何となく雰囲気が伝わる通り実にあっけらかんとした口調で自分の来し方を語る。

ただ口調とは裏腹にその内容然り、言葉を紡ぐまでの思考はまさに詩の天才のそれ。
思考の跳び方とか発想もそうだし、知的な抽出しも詩はもとより哲学、日本の古典、海外文学、民俗学、アート…とばんばん飛んでいって、正直凄過ぎて何言ってるか良く分かんないとこもちょこちょこある。
人間関係もなんか凄くて、親交があった人でも田村隆一、アレン・ギンズバーグ、ジョナス・メカス、中上健次、アラーキー…と錚々たるメンツが色々居て、あげく奥さんが六カ国語を操る才女のブラジル人!笑

読んでいて吉増剛造の天才たる所以を一番感じるのは、吉増剛造が一番敏感に感じ取り思考を巡らせているのが「言葉になる前の思想や感覚」だということ。しかもそれが生起する瞬間とかを絶対見逃さない。
インタビュー形式の語り下ろしなんだけど、節々で「これはこのインタビューで初めて概念化された」とか「この思想は話してて初めて繋がった」とか「これは言葉には出来ないんだけど」とか言ってるし、詩のモチーフ(最近の作品はもはや進ち過ぎて、いわゆる"詩"の形式ですらない…)も五感全てだけでなく、時間感覚、事件性、場所すらも動員されて編み出されている。

全編を通じてそんな感じなので、本当に驚嘆する。
ちなみに詩は学生時代に初めて書いた時からもう、書き方が判ったらしい。そんなんを最初の方にさらっと言ってる。
あと同じく最初の方でモチーフの原風景とか女性性の話してる時に、「つい最近ある女の人を好きになってとても困っちゃったから…」とかさらっと言ってる。笑
あんた御年77歳だろが!って。

最後若干脱線しましたが、気になる人は是非読んで欲しい。新書で安いし。そうそう、税込1,000円切るんだよ、この本!安いの!
カバー付けて単行本にしたら値段3倍でも納得感あるような、しっかりした内容なのに。
6月から東京国立近代美術館で回顧展をやるみたいで、多分その宣伝も兼ねてるからこんなに安いんだと思うんだけど、かなりお得感高いっす、コレ。



なので書店で表紙めくって舌を出した吉増さんを見てピンと来たら、とりあえず買いましょう皆さま。

おしまい。

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