2017年2月6日月曜日

【書評】岸政彦 他『質的社会調査の方法 』:読み物としても最高な社会学のテキスト

先日の小説に引き続き、岸政彦の著作を紹介するんだけど、これが滅法面白かった。

今回紹介するのは、彼の専門分野である社会学の教科書だ。
2016年12月に有斐閣(この響きがもう懐かしい‼︎)から出版された、『質的社会調査の方法』を紹介する。



なんか"有斐閣ストゥディア"という2013年から刊行を開始した、大学生向けの教科書らしい。
こんなリーダーフレンドリーな教科書が刊行されているなんて、最近の大学生が羨ましい…。

学生でもなく社会学専攻でもなかった三十路越えの自分だが、とりあえず著作が出たら読みたいという位には岸政彦が好きなので、


honzの書評で「岸政彦が社会学の教科書を書いた」「これが滅法読み物として面白い」という情報をキャッチし、早速購入し読むに至った。

著者は岸政彦・石岡丈昇・丸山里美の3名。

岸政彦】
このブログでも紹介している社会学者。市井の普通の人々や、"社会的弱者"、"マイノリティー"と一般的にはレッテル付けされるような人の調査をされている。

『断片的なものの社会学』『町の人生』など、一般向けにも読みやすいインタビュー、エッセイが近年刊行されていて、さらに先日小説が芥川賞候補になった。
(その書評はこちら

僕はこの人の『断片的なものの社会学』を読んで、「こういう事をやってる社会学者が居るんだ」という事を知った。


(この本のリンク、多分4回位貼ってんな…笑)

【石岡丈昇】
マニラのボクシングジムに1年住み込みで調査を行い、『ローカルボクサーと貧困世界』という主著を書き上げた社会学者。


僕は前に岸政彦が責任編集をしていた雑誌『at 』でこの人の書いたものを読んだ事があった。この『at』も凄くおすすめ。

あと、北大の准教授らしく、北大出身の自分としては勝手に親近感。笑

【丸山里美】
ホームレス施設への住込みやボランティア、インタビューなどを通して『女性ホームレスとして生きる』という主著を書き上げた社会学者。


読んだことは無いのだが、テーマが興味深かったので、この本自体は知っていた。教科書の文章を読む限り、この人の文章は読みやすいので、かなり面白いと思う。


と、この3名が、

岸政彦:序章、3章.生活史
石岡丈昇:2章.参与観察
丸山里美:1章.フィールドワーク

という分担で書いている。

内容としては、まず「社会学とは何?」「質的調査とは何?」という基本的なところを岸政彦が序章で説明したのち、それぞれの研究分野と絡めて1〜3章が記述される。

で、この各章がめちゃくちゃ面白い。

各著者が自分の主な研究をサンプルとしながら、
「どうやってテーマを決め」「どうやって調査に向かい」「どのように人達とやり取りして」調査記録を残したのか、
その記録を基に論文を書くにあたり、「どういう所に気を付け」「どういう所に悩み」仕上げていったのか、
という、具体的な成果物が仕上がるまでのステップ、注意点、自分の苦労話や想いが余すことなく書いてある。

かなり細かくて、"手土産の持っていき方"とか、"依頼メールの書き方"とかまで書かれてる。
注意点も同じく細かくて、「ネット上の例文をそのままコピペしないこと、時勢の挨拶などは不要」とか、「ICレコーダーの下にはハンカチやハンドタオルを置く」とかまで書いてある。笑えるレベル。凄い。

なので、今まで読んだ社会学の本がどうやって作られていったのか、その舞台裏を明かしてもらったような気持ちになった。
それにあたかも自分も調査に参加するような、むしろ自分も調査してみたいような、そういう気持ちになった。

それともう一点、これは主に3章とブックガイドの事で、先行研究の紹介が面白く、読みたい本が次々見つかった。


石岡丈昇、丸山里美の主著も勿論だけど、岸政彦の紹介がホントに良くて、「興味あるけど、具体的な方法論とかまではまぁ…」という人は、先ず3章とブックガイドを読んで欲しい。先人達の研究にウルウルするから。
(個人的に一番キタのは中野卓の『口述の生活史』のくだり。これは凄いよ、ただAmazonで中古7,000円とかするんで、おいそれとは手が出なくて困る。)
 
ほんと、こんなの高校生の時に読んでたら社会学やりたくなってた気がする。今の若者よ、羨ましい。

大学生以外の人が読んでも勿論面白いし、「この本から社会学の本読み始める」ってのを止めるではないですが(居なそうだけど…)、一応、以下の本辺りを読んでから読むのがおすすめです。
その方が成果物のイメージが沸くので、具体的な調査方法のくだりが面白くなりますから。

      

ふー、また岸さんの本で熱くなってしまった。

おしまい。


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