2016年7月8日金曜日

書評『うわさと俗信』常光徹:元祖「都市伝説」フィールドワーカーの回想録




シブーい装丁、タイトルのこの本。
なんと家の近所のAEONで見つけました。

ベストセラーや話題の小説が平積みで顔見せされている書棚の中、ポツンと、
若者に紛れる初老の男性のような佇まいで置いてありました。

それがたまらなく目を惹いたので手に取って奥付を見てみると何と1997年に出された本の再版。
しかも再版の言葉も本の見開き一つほど。

「なんで、こんなもん仕入れたんだ…」とまぁ、頭に?が浮かびまくりの状態だったんですが、とりあえず続いて目次を眺めてみる。

後半はまぁ装丁、タイトルから予想される通り、
「親指と霊柩車」とか「ホウキをまたぐな」みたいな俗説の話が書いてある。

気になったのは前半。
口裂け女、トイレの花子さん、人面犬、紫の鏡、消えた乗客、ピアスの穴から…等々。

「いやー、懐かしいなー、この手の話」という興味に、
「あら、このおじさんこんな一面があったのね…」AND「AEONの本屋でこんなん見つけちゃったよ」という
二重に予想を裏切られたことで拍車がかかって買ってしまった。

まえがきを読んでいくと著者の常光さんは学校の先生の傍らでフィールドワーク的に、
生徒や先生から現代(当時の)の噂を聞き集めていたらしい。今は民俗学の結構お偉いさん。
で、それがちょうど口裂け女や、トイレの花子さんだとかが噂として流れた頃で、そういう内容だったのだ。

"学校の怪談"というと個人的にはすっごく懐かしくてたまらん。
僕は小学生の頃、怖い話にハマっていて、そういうマンガだとか本だとかを買っては読み漁っていた。
(母親もそういうのが好きだったので、割りと欲しい本は買ってくれた。)
中でも、講談社KK文庫から出ていた『学校の怪談』シリーズは片っ端から読んでいた。


買った後に知って驚きだったのは、「小学校の時に見たラインナップが結構出てるなぁ」と思って見ていたら、何を隠そう『学校の怪談』シリーズの著者が常光さんだったのだ!
「おーいおい、全然気づかなかった先に言ってよ、そしたらもっと迷わず買ったのに」って思ったのだが、まぁ無事に手に入れたから良し。


で、内容としてはエッセイで、うわさの内容を簡単に記しつつ、
当時の時代状況だとか、回想だとかが入って非常にマイルド。
まあ、民族学的な目線でフィールドワークの一環としてこういう現代のうわさ、
今で言うところの都市伝説を集めたので、怖いという感じはない。

こういう都市伝説が騒がれる以前の話を収集してる人ってほとんど居ないので、
この本は興味ある僕にとっては棚ボタ的な非常に良著だった。

で、中身を読むと、回想的な内容に引きづられて結構色々思いを馳せちゃう。

例えば、口裂け女とかって1979年(昭和54年)に話題がガツッと出たらしい。

これって時期としては、高度経済成長期も一段落して、郊外に大型団地とかがガンガン建って、
これからバブル、受験戦争最盛期に向かう時期。

昔ながらの地域のコミュニティが崩壊して、新しいコミュニティが生まれ、
多くの核家族(これも新しく増えた家族形態)の人たちは、新しい人間関係を構築しないといけない。

更に、高度経済成長でモーレツに生活向上だけ求めていくフェーズが一旦終わり、次の波が来はじめている。

そういう中での不安が色々と合わさった時期に得体のしれない怖い存在の象徴のように口裂け女が出てきてメディアで騒がれたってのは、結構時代背景から見ても面白いなぁとか思った。


あともう一個、面白いなと思ったのが、主に俗信についての話で、
例えば「夜爪を切ると親の死に目に会えない」とか「霊柩車を見たら親指隠す」とかある。
で、それに大して常光さんは本書の中で、
「現代の子供たちも、こういう俗信をその由来は分からなくとも無意識に信じて避けていたりする。
時代は変わってもそういう俗信が残るもんだなぁ」とかって言ってる。

これ、もういま通用しないと思う。

この本が書かれた1990年代に小学生だった子どもたち(僕とかもまさにそう)にとっては、
まだこういう迷信って結構身近にあったのが実感としてわかるけど、
もう今の子供達とかもう全然そんなの実感として無いんじゃないかなって思う。

再版されるまでの20年という月日のギャップが感じられるところで、
また別の楽しみ方として面白かった。


なんか今回は自分の好きな通りおしゃべりしただけ、みたいな内容になってしまった。。。
とはいえ、これから夏真っ盛りですので、この『うわさと俗信』だったり『学校の怪談』、
暑くて眠れない夜のお伴にいかがでしょうか。

ちなみに『学校の怪談』シリーズは個人的に2〜4が一番油のってて面白いと思う。
結構ほんとに怖いのもある。(しかもKindle版出てるし、、、買お。)


おしまい。


P. S. ちなみになんでこの本がうちの近所AEONに平積みされていたかは、分からずじまいだった。

「もしや常光さん南砂の学校で教えてたの?」って思って調べたけど、
教鞭を執っていたのは普通に練馬区と文京区だったし。(我ながら、よう調べたな・・・)

でも郊外のスーパーの本屋とかって、こういうワケ分かんないチョイスたまにあるよね、とも思うし、結構そういうの見つけるのが面白かったりして個人的にも好きだったりするのでアレなんだが・・・

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