2016年1月19日火曜日

書評:『BRUTUS 2016年 1/1・1/15合併号 "夢中の小説。"』

こんにちは、どいけんです。

ちょっと間が空きましたが、年末年始にピンチョンの傍らに読んだものの書評をこれからぽつぽつ書いていきます。
まずは一番書きたいことのある、これ。
これが去年読了した最後の本(雑誌だけど)かな。


『BRUTUS 2016年 1/1・1/15合併号 "夢中の小説。"』



Brutusは毎年年末あたりに本の特集してますが、今回のやつは面白かった。
まず、「役に立つかは気にせずに、とにかく楽しい小説特集」というコンセプトが良かった。
これまでの何回かは「本が好き!」ってコンセプトの特集が多くて、最初は本好きにはたまらんって思ったものの、何回か続いて最近は正直マンネリだなと思ってた。
変にビジネス書とか時事ネタ系の本とかいらねーなー、コンセプトも変わんないし、手広いけど深掘り系のネタが無いなぁと思って買ってなかった。
その辺マガジンハウス編集部さんとしても「どげんか遷都」という感じだったのか、今回はこのコンセプトに一新。
小説に絞った深めの仕上がりになってなくて、良い内容でした。

ただ、ちょっと申し訳ないのは、「バックナンバーになっちゃったから探して買ってね!」ってこと。
ちょっと日にち経ったからって古くなる内容では無いんですが、書店にはもう新しいやつが並んでしまっているんで、ネット注文なり、バックナンバーあるところに行くしかないのです…でも、今回はおススメです。バックナンバーで買ってもいいよ。


特にツボった特集をあげて書いていくと、

◯穂村弘『美しいことばにただ浸る。』
ほむほむが愛する文体の小説を5本取り上げたもの。
倉橋由美子、金井美恵子、太宰治、室生犀星、都筑道夫。

倉橋由美子がその文体を窪田啓作が訳したカミュの『異邦人』で学んだ話とかが書かれてて読んでてニヤニヤした。
「きょう、ママンが死んだ」から始まる『異邦人』の日本語でもフランス語でもない独特の言葉選びのセンスを受け継いで、倉橋由美子のあの文体が出来るのか…とかね。

あとは金井美恵子。いいよね、なんか芯の感じが鈴木いづみに似てるなーって思いながら初期のエッセイを読んだ記憶がある。
『愛の生活・森のメリュジーヌ』に含まれる短編が紹介されてて、「愛の生活」が入ってるなら買ってもいいなと。
描写がキレイ、夏の朝方のスーッと澄み渡るような静けさと明るさをイメージする文体ですね。

あとは鉄板の太宰の「女生徒」も選ばれておりました。

                   



◯草彅洋平『私小説こそが世界を救う』
この人、知らなかったんですが日本近代文学館で<BUNDAN COFFEE & BEER>というカフェをやっているのだそうで。
中の蔵書2万冊は全てこの草彅さんの蔵書だそうで。素晴らしいです、行きたいです、誰か一緒に行きましょう!

んで、私小説という事で、日本の私小説で節度のある人気を誇る(=あんま有名じゃないもの)を8冊取り上げてます。
耕治人、川崎長太郎、近松秋江、高見順、武田泰淳、伊藤整、八木義徳、宇野浩二。

もう、中二病こじらせちゃった文壇おじさんの巣窟から梁山泊ばりのバリエーションでこじらせ度合いの半端ない人たちが紹介されてます。
クズっぷりが最高です。布団のにおい嗅いでるレベルじゃないっす。結構知らない人いた。
耕治人とか川崎長太郎とか知らなんだ。

紹介文には、川崎長太郎は「小田原の物置小屋に住み込み、毎日のように私娼窟へと通い続け、それを小説に書き続けた…」と、近松秋江は「メンヘラ臭が甚だしい」と、耕治人は「まさに「被害妄想文学」と呼ぶにふさわしい…」とそれぞれ書かれててほんとなんか、紹介文読んでるだけで逆に元気るわ。こういうダメ人間の私小説とかエッセーとか、大好きです。
「はあ、そうだよね。僕も生きてていいよね。」とか思います。

そして講談社文芸文庫、まじいい仕事してる。草彅さん紹介の8冊のうち、実に4冊が講談社文芸文庫。
この文庫は全体的にちょっとお高めだけど、やっぱりこういうマイナーで好き者しか買わない本たちを出版してくれている価値は大きくて、
絶版にせずに残しておくためには必要な経費なのだよなーと思いました。
ので、今後もうちょっと抵抗なく買う事にします。

                



◯高野秀行『小説の世界で見つける、未知なる辺境』
これも良かった。なんかこういう雑誌の海外特集でありがちなパターン、あるじゃない。
南米でガルシア=マルケスとかパルガス=リョサとかに触れて、そっから中東でオルハン・パムク、そのあとアジアで莫言が来て、北アメリカでミランダ・ジュライとかね。
あと、新潮クレスト・ブックスの回し者か!みたいのとかね。
個々の作家は当然素晴らしいんですが、その紋切り型の切り口どうにかなんねーのかと。

そういうありがちのじゃなくて、全然聞いたこと無い作家の紹介が多くて、ちゃんと辺境だった。
イランとかさ、ニャンマーとかさ、ラオスとかの小説とか、知らないでしょ?そういうのがチョイスされてたりして、アメリカ、フランス、中国、インドとかも結構知らん人とか、知ってても取り上げられてんの見た事ないなぁのてのが多かった。
本当に「自分の感性で選んだんです!!」感じグッドでした。

よかった、って使い過ぎたからグッドです、に変えてみました。はい、小手先です…。

ちなみに紹介者の高野さんはノンフィクション作家らしく、よくわかんないけど、インドの小説紹介してるのに、インドは入国禁止なんだって。
だから小説でしかインドは楽しめないんだって。ウケる!
その1エピソードが本のチョイスにドスを利かせてる感じもまた、いいです。

以下、紹介されているものから抜粋。
国は左から、ミャンマー、イラン、ナイジェリア、アメリカ。

               



◯今泉渚『月15万円も本を買う、ある女子の読書偏愛』
いやあのね、この人をよく見つけてきたなってが驚きです。やりおるな、と思った。
この今泉渚女史、ググッても全然出てこなくてどうやって取材にこぎつけたのか謎。コネクションか?
とにかくすごい方で、月15万円本を買うand本を置くようにアパート借りてるってよ。

選んでる本もすごくて、海外文学をチョイスして自らレビュー書いてるんだけど、海外物の新しい小説マジでがんがん読んでるみたい。紹介してる本も面白そうなの多い。そしてレビューが深い。

あと、なんかさらりとカプシチンスキとか紹介して、
「この世には2種類の女がいる。カプシチンスキを読んでいる女と読んでいない女だ」というフランスのジャーナリストの発言を受けて、
ならば自分は「読んでいる女」になろうと思って読んだ、とか言ってて。かっこ良すぎです。ちょっと意味わかんないレベル。

本へのコミットメントが半端のない人で、読書会とかやってるみたいで是非お近づきになりたいんだけど、ググっても出てこないのよ。いや、また言うけどどうやってこんな人見つけてきたんだろ。ほんと。
どっかの界隈では有名なのかな。マジでそれがすごいなって思う。


以下、紹介されていた本から気になるものを抜粋。
『民のいない神』は2015年ベストに入ると書かれていました。この辺Amazonでググると関連図書の紹介でこないだ書評した『STONER』とかも出てきます。
左から、カプシチンスキ『黒壇』、ミハル・アイヴァス『黄金時代』、ハリ・クンズル『民のいない神』
         



◯日本のSFはどこに行くのか?
この企画の中にある「今、読んでおきたい日本のSF見取り図。」
これが凄い使える!このページはコピーしてプライベートな手帳に挟んで携行してもいいと思いますよ、SF好きな人は。

今回の企画の中で、情報のまとめ方として白眉なものは間違いなくこれと思います。
伊藤計劃、飛浩隆、神林長平、円城塔、宮内悠介…等々の今の日本で第一線な人たちの代表作を中心にジャンルと本格派度合いでマップしております。
これは僕みたいなSF知ったかにとっては特に道標に最適です。

あと、やっぱ僕は結構伊藤計劃に想いが強いので、虐殺器官の紹介で「日本の現代SF小説の転換点ともなったゼロ年代フィクションの最高峰」って書いてあったのは溜まらなかった。
確かにそういう事言われてるし全く違和感ないんだけど、キチンと書かれるとなんかわかんないけど嬉しいっす。なんでだろうね。
まぁ、僕が1番好きなのはハーモニーなんだけど。。

              



BRUTUSは年1回でいいからこれ位本気でテーマ絞って深めの本の特集やってほしいな。
あと、映画とか美術館とかも毎年やってるけど、それも同じ。
これ位コンセプト決めて作ってくれたら、マンネリ感も解消できて、もっと面白い!って思う。

以上。 

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【関連する記事は以下】
去年読了した本:2015読んだ本まとめandベスト

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